AI技術の中でも特に注目を集めているのが画像生成AIです。テキストで指示するだけで、高品質な写真(のような画像)やイラストを瞬時に生成できる画像生成技術は、多くのビジネスシーンで活用できます。本記事では、画像生成AIの仕組みや基盤技術の種類、活用メリットやビジネス活用事例について詳しく解説します。記事の後半では、画像生成AIを開発するための手順や導入時の注意点についても紹介しているので、画像生成AIの利用開始までの流れを理解し、導入時に役立てていただける内容となっています。
【目次】 |
画像生成AIは、ユーザーが入力したテキスト(プロンプト)や既存画像に基づいて、新しい画像を自動的に生成するAIです。例えば、「空飛ぶクルマが行きかう未来都市の夕暮れ」と入力すると、AIがそのシーンを描いた画像を生成します。画像生成AIの活用により、従来の人に依存する画像制作方法よりも迅速かつ創造的なビジュアルコンテンツを生み出すことも可能です。
画像生成AIの多くはディープラーニング技術を活用して、膨大な画像データと、それに関連付けられたテキストデータを学習しています。そして、「テキストエンコーダ」と「画像生成器」の2つで画像を生成します。
構成要素 | 機能・役割 |
テキストエンコーダ | ユーザーが入力したテキストを解析し、意味やキーワードを数値化(=潜在表現) |
画像生成器 | テキストエンコーダから得た潜在表現を元に画像を生成 |
生成プロセスでは、画像の大局的な構成(形やレイアウト)と、細部のディテール(色やテクスチャ)を段階的に作成します。
画像生成AIのニーズ向上とともに、多種多様な画像生成AIサービスが提供されています。以下に主なサービスをまとめました。
サービス名 | 特徴 |
DALL-E(OpenAI社) | プロンプトへの柔軟な対応、ChatGPTと連携(ただし、2025年3月にGPT-4oに切り替え済) |
Midjourney(Midjourney社) | リアリティな画像スタイルが得意 |
Stable Diffusion(Stability AI社) | オープンソースで自由なカスタマイズが可能 |
それぞれのサービスには異なる強みがあり、用途やニーズに合わせて選ぶとよいでしょう。
画像生成AIは、さまざまな業界や分野で活用されています。以下が、画像生成AIの代表的な活用シーンです。
活用シーン | 具体例 |
デザイン制作 | コンセプトの視覚化や実際の作品制作に活かす |
広告 | 独創的なビジュアルコンテンツの制作 |
マーケティング | パーソナライズされた広告画像やキャンペーン用ビジュアルを生成 |
ゲーム | キャラクターデザイン |
AI学習用教師データの生成 | AIモデルの学習に必要な大量のデータを生成 |
特に、近年注目される活用方法が、AIモデルの学習に使われる教師データ(学習データ)の生成です。教師データの収集には膨大な時間とコストがかかり、特に大量のデータを必要とするAIの学習には大きな負担が強いられていました。画像生成AIを活用することで、膨大なデータベースや公開データの中から必要なデータを探す必要がなくなり、大量の画像データを迅速に得られます。データ収集の手間が削減されることで、開発コストの削減につながりAI開発の効率が向上します。そのため、データの収集に特に時間がかかることが多い医療分野の疾患部画像や製造業の外観検査での不良品画像の準備において画像生成AIの活用が注目されています。
画像生成AIの基盤技術には、さまざまな種類があります。代表的な基盤技術を紹介します。
VAEは、入力されたデータ(画像)の特徴を効率的に圧縮(エンコード)して、その特徴から元のデータを復元(デコード)する過程で学習するモデルです。画像の圧縮と生成を同時に行えるため、画像生成AIの基礎技術として利用されています。また、生成された画像のバリエーションを調整するためにも効果的です。
GANは、Generator(生成器)とDiscriminator(識別器)の2つのネットワークから構成され、2つのネットワークが以下のように競い合いながら学習する手法です。
①Generator:本物にそっくりの偽画像を出力
②Discriminator:Generatorの生成データを本物かどうか見破ろうとする
上記の流れを繰り返し、互いに精度を高めながら学習することによって、最終的に本物と見分けがつかないリアルな画像を生成する仕組みです。特に、GANシリーズの一つであるStyleGANは、顔画像においてまるで本物のような高解像度画像を生成できることから映像制作や広告などで幅広く活用されています。ただし、学習が不安定になることもあります。
Diffusionモデル(拡散モデル)は、元の画像に徐々にノイズを加えていき、最終的に完全なノイズにします。次に、ノイズだけの状態から元の画像を復元(ノイズ除去)する逆の過程を学習します。この反復プロセスを応用することで、ランダムなノイズから非常に高精細で多様性に富んだ画像を生成できます。GANに並ぶほどの細部にわたるディテールの生成に優れ、かつ安定して高品質な画像を作成できる点が特徴です。そのため、『Stable Diffusion』や『DALL-E 3』、『Midjourney』など、多くの主要な画像生成AIサービスで採用されています。ただし、GANに比べると生成時間が長くなります。
Transformer は、元は自然言語処理において使われていた技術ですが、画像生成モデルとしても応用されています。「Attention(注意機構)」と呼ばれる仕組みが核となっており、入力データのどの部分に注目すべきかを学習します。特に、DiffusionモデルとTransformerを組み合わせた「Diffusion Transformer」は、Diffusionの詳細な画像生成能力とTransformerの並列処理能力の組み合わせで高効率の画像生成が可能です。
画像生成AIは、ビジネスのさまざまな分野でメリットを生み出しています。
画像生成AIを活用することで、プロのデザイナーが行うクリエイティブ業務の一部を自動化でき制作のコストを削減可能です。例えば、アイデアの初期プロトタイピングやビジュアルコンセプトの検討が短期間で可能になるため、手作業での反復作業を減らします。そのため、大幅なコスト削減が期待できます。
商品開発やキャンペーンデザインの初期段階で画像生成AIを活用すれば、多数のデザイン案やビジュアルコンセプトを短期間で生成できます。より多くの選択肢から最適なデザインを選ぶことができ、制作工程のスピードアップが図れます。また、画像生成AIで迅速にプロトタイピングを提供すれば、関係者間での合意形成を早めることが可能です。その結果、制作にかかる時間が短縮され、制作全体の業務効率が向上します。
画像生成AIは、アニメ調や水彩画風、写実画など、多種多様なスタイルの画像を生成できます。プロのアーティストが制作するような画像はもちろん、斬新な表現を取り入れたビジュアル表現も生成できるため、独自性の高いコンテンツを生み出せます。そのため、画像生成AIを活用することで他社と差別化できる斬新かつ魅力的なデザインが実現可能です。コンテンツのスタイルや表現方法にバリエーションが増え、ターゲット層に対してより効果的にアプローチできます。
画像生成AIは、さまざまな業界で独自のプロモーションや広告活動に活用されています。代表的な事例を紹介します。他の生成AI活用事例については『生成AIの企業最新導入事例まとめ!導入効果・導入方法がわかる徹底解説』をご覧ください。
アサヒビールは、新たな顧客体験を提供するために、画像生成AI「Stable Diffusion」を活用した体験型プロモーションを日本初の試みとして展開しました。Stable Diffusionをベースに動く「Create Your DRY CRYSTAL ART」という画像作成サイトを設置して、そこにユーザーがテキストや自身の画像をアップロードします。そうすると、オリジナルのアート画像が作成されるのです。場所や気分、水彩画風やアニメ風といったテイストも指定でき、Stable Diffusionが画像をアート化します。商品の世界観に合わせた新たなライフスタイルの提案を感じさせ、顧客体験をより促進することで商品の認知拡大と購入喚起に成功しました。
伊藤園は、店頭販促活動を強化するため、画像生成AIで作成されたオリジナルAIキャラクターを活用したポスターを採用しました。新商品のゆずとアロマの香りを表現するために、キャラクターの表情や髪型、服装を調整するなどポスター全体のトーンの細部まで工夫されています。
画像生成AIの導入方法にはいくつか選択肢があります。ここでは、3つの導入方法の手順やメリットなどを紹介します。
Stable Diffusionなど既存の画像生成AIサービスを直接利用することで、画像生成AIを導入できます。既存サービスを利用する方法には、以下のメリットがあります。
既存サービスの多くは、従量課金制や月額サブスクリプション制で利用できます。ただし、以下に注意が必要です。
利用する画像生成AIサービスの利用規約は必ず事前に確認しましょう。
以下に挙げるようなクラウドプラットフォームを既に導入しているのであれば、画像生成AI関連のライブラリやツールを利用できます。
主要な画像生成AIサービスは、自社ツールを外部システムに組み込むためのAPIを提供しています。インフラの構築や管理を気にすることなく、比較的容易にモデルの構築から学習、デプロイまでできるのがメリットです。
TensorFlowやPyTorchなどのディープラーニングフレームワークと、事前学習済みDiffusionモデルを提供するDiffusersなど画像生成ライブラリを活用し、自社でAIモデルを構築することも可能です。オープンソースのコードは自由に変更できるため、自社の要件に合わせて柔軟にカスタマイズできる点がメリットです。この方法で画像生成AIを導入する際は、以下の点を考慮しましょう。
特に、技術スキルがない場合に導入を進めると開発リードタイムが長くなるほか、最終的な製品やサービスの品質にも悪影響を与える恐れがあるため、必要に応じて専門会社を頼るとよいでしょう。
画像生成AIの導入に際しては、いくつかの問題点が存在し、これらの課題に適切に対処することが重要です。
画像生成AIが生成した画像が、既存の著作権保護された画像と類似していると著作権侵害に発展する可能性があります。現時点での著作権法では、以下の2点を満たす場合に著作権法違反になるとされています。
法的トラブルを避けるためには、著作権物を利用する際に適切な許諾を得ることが必要です。また、AIに入力する画像を人間の目で十分にチェックし、著作権を侵害していないか確認する必要があります。生成AIの活用における著作権侵害の条件や実例、対策については『生成AIは著作権侵害になる?問題になる条件・実例・対策ポイントを解説!』で詳しく解説しているため、あわせてご覧いただくことで、より安全かつ適切に生成AIを活用するための知識を深めることができます。
参考文献:文化庁,2024年6月,『AIと著作権』
一部の画像生成AIサービスは商用利用を禁止、または制限しています。生成画像の商用利用を検討する際は、利用規約をしっかりと確認し、商用利用が可能なサービスやライセンスを選ぶことが重要です。また、オープンソースのフレームワークなどを活用し、自社でモデルを開発することも検討しましょう。
画像生成AIが学習している画像データには、性別や人種、年齢など特定の属性に偏ったバイアスが含まれる場合もあります。そのため、知らず知らずに悪意や偏見のある画像が生成されることもあります。また、実際の商品ではありえない効果効用を生成AIで表現するならば、社会的混乱や信用失墜を招く可能性もあります。
悪影響を与える恐れがあるため、必要に応じて専門会社を頼るとよいでしょう。
画像生成AIは、コンテンツの自動生成やプロトタイピング、広告やデザインなどにおいて、ビジュアル制作の効率化、新たなクリエイティブ表現の創出を導く生成AIです。高度な画像生成モデルを基盤技術として用いることで、リアルな写真風の画像から抽象的なアート、カスタムデザインまで幅広いアウトプットを可能としています。マーケティング、エンターテインメント、プロダクトデザインなど、さまざまな分野で活用が進められています。ただし、画像生成AIを活用する際は、生成された画像に関する著作権、データの偏りやノイズ、フェイク画像のリスクに注意が必要です。